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AとLの法則02
AとLの法則、ルルーシュ過去編。
今回はルルーシュ6歳と騎士候補ロイドの、ようやく主従関係が成り立ってきた初々しいあたり。
ロイルル騎士皇子ですが、これはロイド騎士設定朝ゼロなので、あくまでも二人は主従関係です。
主至上のロイドに、ルルーシュが大型犬に懐かれているような気分になってます。
それでは、続きからどうぞー!
駆ける、翔ける、主の傍へ。
「仮」に仕える事を許されたその日から、更に日々鍛え続けた身体は息一つ乱れもせずに全速力で道を走った。
目指すは、ただひたすらあの場所。
あの人の居る美しき離宮。
「おい、今あのロイド・アスプルンドが走って行かなかったか?」
ギョッとしたように思わず、といった感じで零れた言の葉は意外にも周囲にいた大半の耳に波紋を呼んだ。
何故ならばそれ程に、彼の名は有名。
「ロイド?軍学校を飛び級し、技術部の研究方面でも頭角を表してるって噂の、あの?」
「そうだよ、大学部学年首席の変人だよ。あんなに急いでどこに行くんだ?」
「ていうか、あいつでも走る事あるんだなー」
「軍の呼び出しじゃないのか?今日はシュナイゼル殿下も執務でお忙しいのだろう?」
「だが、あのアスプルンドだぞ。いくら第二皇子殿下の手伝いとはいえ、急ぐような性格じゃないだろう」
通り過ぎた色素の薄い影に気付いた者、声を聞いた者達は、そろって珍しそうに首を傾げた。
飄々とした胡散臭い笑顔しか見た事のない彼らにとって、全力疾走で遠ざかって行ったロイドに内心仰天していたらしい。
そういえば、と一人が呟いた。
「ならばあの、あいつが皇族の騎士候補だとかいう噂も本当かもな」
「第二皇子殿下の御学友にして伯爵位を継ぐのも決定事項。はっ、頭も良くて文武両道にそこまでくれば奴も将来安泰だな!」
「いや待て、俺は以前シュナイゼル殿下が自分の騎士候補ではないと凄い剣幕で否定なさっているのを見た事があるぞ」
「ならばデマか?アスプルンド家は第二皇子の後ろ盾であるし、他にそれより親しい皇族がいるとも思えんしな」
「何より奴が騎士など片腹痛い」
「確かに!」
賛同と同時に彼等は笑い合う。
学生達は、知らなかった。
シュナイゼルよりも親しく、それどころか彼が唯一敬い膝を折る皇族がこの世に存在する事を。
彼が週末消えるのはシュナイゼルの傍ではなく、その小さな皇子の傍に在りたい為なのだという事を。
マリアンヌ皇妃が長子にして神聖ブリタニア帝国第十一皇子、その名をルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
御歳6歳にして知る者ぞ知る、一部の者からは黒の皇子と密やかに囁かれ始めている存在を。
やがて誰もが知る事になる名を、彼らはまだ知らない。
全力でロイドはその柔軟な筋力を使い、大地を蹴ってぐんぐんと変わる景色の中、その遠く先一点のみを見据えていた。
視界に入る景色はモノクロのように冷えて味気無く、興味も持てず。
力の限り急いで離宮への道を走り抜けていたロイドは、けれど視界に入った烏の濡れ羽色の色彩に心震わせて足を止めた。
小さな人影が一人きり、とことこと森の中を歩いている。
その小柄な何者よりも愛らしい姿に、ロイドは世界が息吹を宿し彩る事を覚えた。
彼がいて、ロイドの世界は鮮やかに色彩を帯びて染まる。
彼がいて、ロイドは初めて無機物から有機物になれる。
生きているのだと、彼の傍らに居られるだけでそう感じられた。
だって彼がいるその場所が、ロイドにとっての世界だと知ってしまったから。
「ルルーシュでーんかっ♪」
ふわりと柔らかに微笑んで、ロイドはその傍らへ軽やかに駆け寄った。
気付いた子供が振り返る事で、その美しい純紫の双眸に己が映された事に、気付いて。
幸せと歓喜で更に頬が緩む。
「ロイド?学業は…」
「早くルルーシュ殿下にお会いしたくて、全力で片付けてきちゃいましたv殿下こそ何をなさっていらっしゃるのですかぁー?」
へらへらとした造り笑いなどではない、造らずとも心の底から溢れ出る笑顔。
きっと、その顔を同僚のラクシャータなどが見れば目を疑った事だろう。
自分がこんな風に笑えるだなんて、ロイドもルルーシュに出会って初めて知ったのだから。
こんなに人間らしい自分が存在したなんて、ロイド自身今でも信じられなくて。
ただ傍に居るだけで幸せで。
その微笑み一つで苦労が何もかも吹き飛んで。
それくらい………それほどまでに、まだ出会って三年程度にも関わらず気付けばロイドの世界は総てがルルーシュで構築されてしまっていた。
彼が全てで、何よりも彼が大切で。
彼を中心に廻る世界。
でもそんな事を悪くないどころか、幸せだとロイドは思っている。
だって、ロイドは感じたのだ。
否、知ってしまった。
目の前の小さな皇子と出会ったあの日、自分は彼と出会い、彼に仕える為に生まれてきたのだと。
誰か唯一人の為に生きる事の至福。
己の命より大切な唯一を、その全てを掛けて守りたいという強い意志。
一生知る事は無いと思っていたそれ等の想いはあまりに甘美で、その感情は初めてロイドを“人”にしてくれた。
だから、ナイトメアにサクラダイトが必要なように。
人間に酸素が必要なように。
ロイドが生きるには、ルルーシュが必要だった。
ルルーシュだけが、絶対不可欠だと知ってしまった。
故に、仮にでも仕える事を許された事に、ロイドは何よりも至福と幸せを感じているのだが。
どうにも肝心の主には、想いは伝わりきっていないようで。
「クロヴィス兄上にチェスの呼び出しを受けてな、今からお伺いして来ようと思っていたところだ」
「ぇえーっ!?何でそれで、騎士候補である僕を呼んで頂けないんですかぁ~?!」
「何で、って。お前は学生があるだろう。本分である学業を怠ってどうする?」
「勉強なんてあんなの教えられなくてもわかりますしぃ、ルルーシュ殿下の方が大切に決まってるじゃないですかぁ~!!」
「駄目だ。第一、いちいち呼び付けるのも面倒だろう」
あっさりとそんな事を返す主に、そんなぁ~と悲しみの声を上げてロイドは少し落ち込んだ。
例え候補とはいえ騎士という自分の存在を、主はイマイチよく分かってくれはしない。
否、分かっているのかもしれない。
頭の良いルルーシュの事だ、ルルーシュの傍ばかり纏わり付いて、ロイドがアスプルンド伯爵家から何らかの仕打ちを受ける事を避けるよう計らっているのだろう。
だが、だからこそ、ロイドはそんな事どうでも良いのに、と思ってしまうのだ。
爵位も、学歴も、地位も、名誉も、ロイドはいらないし興味もない。
何より大切な大切な主が諭すから、きちんと全て役割を熟しているだけで。
主しか、ロイドはいらないから。
だから…――
「どんな些細な事でも要らない事などないし、いつかは嫌でも手放さなければならない時がくる」
「…はい」
「もしお前が僕が大切だと、僕の傍に在りたいと願うのなら、その日まで今ある全てを放り出さずに全うしろ……
…僕を護る最強の騎士に、お前はなってくれるんだろう?」
最後の言葉にロイドはバッと顔を上げて目を見開いた。
その視線の先で全て分かっているとでもいうように、幼い年齢に似合わぬ顔でルルーシュはくすりと笑みを零して。
からかいの色すら垣間見せるその眼差しは、ロイドの返答を待ってくれていた。
否など、疑いもせずに。
その信頼に、肌が粟立つ。
「いっイエス・マジェスティ…!!」
「だったら拗ねてないで行くぞ、早く来い。兄上を待たせると後が酷いからな」
反射的に膝を着いたロイドに踵を返して。
警戒心の強かったはずのルルーシュは、いとも簡単に騎士候補にだけ無防備な背中を見せた。
さっさと歩き出した主の後を追えば、ルルーシュは決して振り向く事はなかったけれど。
ポツリ、と。
そう、零した。
「第一、待たずともこうしてお前が来ると思っていた」
「…へ?そうなんですかぁ??」
「……週末はいつも、走って来るだろう。別に、お前を蔑ろにしたつもりはない」
これでも信頼、しているしな…と。
最後に小さく落ちたそれは、ロイドの耳に何より甘い波紋を広げて。
幸せで、頬が緩む。
目の前で決して振り向かない主の耳が、少し赤く染まっていて。
幸せで、その事実が、言葉が何より嬉しくて。
ついにロイドは耐え切れず、何より大切なその存在に飛び付いた。
「ルルーシュ様ぁ~!!僕ぜぇーったい絶対、ルルーシュ様の騎士になりますからねぇ~!!」
「ばっ馬鹿!ロイドっ、主に抱き着く騎士があるかっ!」
「いーじゃないですかぁ、公の場じゃないんですからぁー」
そういう問題じゃないっ!と叫ぶルルーシュに抱き着きながら、素直ではない主をロイドは今まで以上に守り抜こうと決意したのだった。
小さな主の信頼は、その日騎士に確かな忠誠を新たに深く刻ませた。
【つづく】
今回はルルーシュ6歳と騎士候補ロイドの、ようやく主従関係が成り立ってきた初々しいあたり。
ロイルル騎士皇子ですが、これはロイド騎士設定朝ゼロなので、あくまでも二人は主従関係です。
主至上のロイドに、ルルーシュが大型犬に懐かれているような気分になってます。
それでは、続きからどうぞー!
駆ける、翔ける、主の傍へ。
「仮」に仕える事を許されたその日から、更に日々鍛え続けた身体は息一つ乱れもせずに全速力で道を走った。
目指すは、ただひたすらあの場所。
あの人の居る美しき離宮。
「おい、今あのロイド・アスプルンドが走って行かなかったか?」
ギョッとしたように思わず、といった感じで零れた言の葉は意外にも周囲にいた大半の耳に波紋を呼んだ。
何故ならばそれ程に、彼の名は有名。
「ロイド?軍学校を飛び級し、技術部の研究方面でも頭角を表してるって噂の、あの?」
「そうだよ、大学部学年首席の変人だよ。あんなに急いでどこに行くんだ?」
「ていうか、あいつでも走る事あるんだなー」
「軍の呼び出しじゃないのか?今日はシュナイゼル殿下も執務でお忙しいのだろう?」
「だが、あのアスプルンドだぞ。いくら第二皇子殿下の手伝いとはいえ、急ぐような性格じゃないだろう」
通り過ぎた色素の薄い影に気付いた者、声を聞いた者達は、そろって珍しそうに首を傾げた。
飄々とした胡散臭い笑顔しか見た事のない彼らにとって、全力疾走で遠ざかって行ったロイドに内心仰天していたらしい。
そういえば、と一人が呟いた。
「ならばあの、あいつが皇族の騎士候補だとかいう噂も本当かもな」
「第二皇子殿下の御学友にして伯爵位を継ぐのも決定事項。はっ、頭も良くて文武両道にそこまでくれば奴も将来安泰だな!」
「いや待て、俺は以前シュナイゼル殿下が自分の騎士候補ではないと凄い剣幕で否定なさっているのを見た事があるぞ」
「ならばデマか?アスプルンド家は第二皇子の後ろ盾であるし、他にそれより親しい皇族がいるとも思えんしな」
「何より奴が騎士など片腹痛い」
「確かに!」
賛同と同時に彼等は笑い合う。
学生達は、知らなかった。
シュナイゼルよりも親しく、それどころか彼が唯一敬い膝を折る皇族がこの世に存在する事を。
彼が週末消えるのはシュナイゼルの傍ではなく、その小さな皇子の傍に在りたい為なのだという事を。
マリアンヌ皇妃が長子にして神聖ブリタニア帝国第十一皇子、その名をルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
御歳6歳にして知る者ぞ知る、一部の者からは黒の皇子と密やかに囁かれ始めている存在を。
やがて誰もが知る事になる名を、彼らはまだ知らない。
全力でロイドはその柔軟な筋力を使い、大地を蹴ってぐんぐんと変わる景色の中、その遠く先一点のみを見据えていた。
視界に入る景色はモノクロのように冷えて味気無く、興味も持てず。
力の限り急いで離宮への道を走り抜けていたロイドは、けれど視界に入った烏の濡れ羽色の色彩に心震わせて足を止めた。
小さな人影が一人きり、とことこと森の中を歩いている。
その小柄な何者よりも愛らしい姿に、ロイドは世界が息吹を宿し彩る事を覚えた。
彼がいて、ロイドの世界は鮮やかに色彩を帯びて染まる。
彼がいて、ロイドは初めて無機物から有機物になれる。
生きているのだと、彼の傍らに居られるだけでそう感じられた。
だって彼がいるその場所が、ロイドにとっての世界だと知ってしまったから。
「ルルーシュでーんかっ♪」
ふわりと柔らかに微笑んで、ロイドはその傍らへ軽やかに駆け寄った。
気付いた子供が振り返る事で、その美しい純紫の双眸に己が映された事に、気付いて。
幸せと歓喜で更に頬が緩む。
「ロイド?学業は…」
「早くルルーシュ殿下にお会いしたくて、全力で片付けてきちゃいましたv殿下こそ何をなさっていらっしゃるのですかぁー?」
へらへらとした造り笑いなどではない、造らずとも心の底から溢れ出る笑顔。
きっと、その顔を同僚のラクシャータなどが見れば目を疑った事だろう。
自分がこんな風に笑えるだなんて、ロイドもルルーシュに出会って初めて知ったのだから。
こんなに人間らしい自分が存在したなんて、ロイド自身今でも信じられなくて。
ただ傍に居るだけで幸せで。
その微笑み一つで苦労が何もかも吹き飛んで。
それくらい………それほどまでに、まだ出会って三年程度にも関わらず気付けばロイドの世界は総てがルルーシュで構築されてしまっていた。
彼が全てで、何よりも彼が大切で。
彼を中心に廻る世界。
でもそんな事を悪くないどころか、幸せだとロイドは思っている。
だって、ロイドは感じたのだ。
否、知ってしまった。
目の前の小さな皇子と出会ったあの日、自分は彼と出会い、彼に仕える為に生まれてきたのだと。
誰か唯一人の為に生きる事の至福。
己の命より大切な唯一を、その全てを掛けて守りたいという強い意志。
一生知る事は無いと思っていたそれ等の想いはあまりに甘美で、その感情は初めてロイドを“人”にしてくれた。
だから、ナイトメアにサクラダイトが必要なように。
人間に酸素が必要なように。
ロイドが生きるには、ルルーシュが必要だった。
ルルーシュだけが、絶対不可欠だと知ってしまった。
故に、仮にでも仕える事を許された事に、ロイドは何よりも至福と幸せを感じているのだが。
どうにも肝心の主には、想いは伝わりきっていないようで。
「クロヴィス兄上にチェスの呼び出しを受けてな、今からお伺いして来ようと思っていたところだ」
「ぇえーっ!?何でそれで、騎士候補である僕を呼んで頂けないんですかぁ~?!」
「何で、って。お前は学生があるだろう。本分である学業を怠ってどうする?」
「勉強なんてあんなの教えられなくてもわかりますしぃ、ルルーシュ殿下の方が大切に決まってるじゃないですかぁ~!!」
「駄目だ。第一、いちいち呼び付けるのも面倒だろう」
あっさりとそんな事を返す主に、そんなぁ~と悲しみの声を上げてロイドは少し落ち込んだ。
例え候補とはいえ騎士という自分の存在を、主はイマイチよく分かってくれはしない。
否、分かっているのかもしれない。
頭の良いルルーシュの事だ、ルルーシュの傍ばかり纏わり付いて、ロイドがアスプルンド伯爵家から何らかの仕打ちを受ける事を避けるよう計らっているのだろう。
だが、だからこそ、ロイドはそんな事どうでも良いのに、と思ってしまうのだ。
爵位も、学歴も、地位も、名誉も、ロイドはいらないし興味もない。
何より大切な大切な主が諭すから、きちんと全て役割を熟しているだけで。
主しか、ロイドはいらないから。
だから…――
「どんな些細な事でも要らない事などないし、いつかは嫌でも手放さなければならない時がくる」
「…はい」
「もしお前が僕が大切だと、僕の傍に在りたいと願うのなら、その日まで今ある全てを放り出さずに全うしろ……
…僕を護る最強の騎士に、お前はなってくれるんだろう?」
最後の言葉にロイドはバッと顔を上げて目を見開いた。
その視線の先で全て分かっているとでもいうように、幼い年齢に似合わぬ顔でルルーシュはくすりと笑みを零して。
からかいの色すら垣間見せるその眼差しは、ロイドの返答を待ってくれていた。
否など、疑いもせずに。
その信頼に、肌が粟立つ。
「いっイエス・マジェスティ…!!」
「だったら拗ねてないで行くぞ、早く来い。兄上を待たせると後が酷いからな」
反射的に膝を着いたロイドに踵を返して。
警戒心の強かったはずのルルーシュは、いとも簡単に騎士候補にだけ無防備な背中を見せた。
さっさと歩き出した主の後を追えば、ルルーシュは決して振り向く事はなかったけれど。
ポツリ、と。
そう、零した。
「第一、待たずともこうしてお前が来ると思っていた」
「…へ?そうなんですかぁ??」
「……週末はいつも、走って来るだろう。別に、お前を蔑ろにしたつもりはない」
これでも信頼、しているしな…と。
最後に小さく落ちたそれは、ロイドの耳に何より甘い波紋を広げて。
幸せで、頬が緩む。
目の前で決して振り向かない主の耳が、少し赤く染まっていて。
幸せで、その事実が、言葉が何より嬉しくて。
ついにロイドは耐え切れず、何より大切なその存在に飛び付いた。
「ルルーシュ様ぁ~!!僕ぜぇーったい絶対、ルルーシュ様の騎士になりますからねぇ~!!」
「ばっ馬鹿!ロイドっ、主に抱き着く騎士があるかっ!」
「いーじゃないですかぁ、公の場じゃないんですからぁー」
そういう問題じゃないっ!と叫ぶルルーシュに抱き着きながら、素直ではない主をロイドは今まで以上に守り抜こうと決意したのだった。
小さな主の信頼は、その日騎士に確かな忠誠を新たに深く刻ませた。
【つづく】
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