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GLASS Fermata

基本、朝ルル中心、in騎士団なルル受ギアス小説サイト。詳しくは【First】をご覧下さい。日常的呟きとか、考察とか、ヨロヅにイラストとか付いたりするかも。
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  • 11/21/20:04

盤上の選別・前


夏コミ直前に突然書きたくなったもの。
夏コミ無料配布の一つです。
長かったので前後に分割しました。


※ 注 意 事 項 ※

19話派生の朝ルルです。黒比奈です。
でもルルはほぼ出てきません。
かわりに生存していた朝比奈さんがブチ切れてます。
騎士団は好きなので、糾弾はほぼありません。
糾弾対象は基本シュナイゼルで、ブリタニア側とディートもちょっと、あるかも?
それでもOKな方はどうぞー♪






目の前の男の嘘だらけの語りは、いっそ滑稽ですらあった。
呑まれていく空気。
誰もがその口車に載せられて、全て掌握した気になった男のその顔は反吐が出るほど、気に入らなかった。
けれどこの状況を想えば、いっそ哂いを抑え切れず。

「それで結局、シュナイゼル宰相閣下は何が気に入らないの?」





盤 上 の 選 別





室内に響き渡る背筋が凍りつくほど冷たい音に、室内は音を失い痛いほどの静寂で張り詰めた。
開いた儘の扉に寄りかかるようにしてクツクツと笑う朝比奈に、室内の者はその生存に驚愕を示していたが、そんな些細な事はどうでも良かった。
今、大切な事。
それは、先ほど手を噛まれたばかりの目の前の、駒。

「俺の敬愛なる藤堂さんを騙して、俺の最愛なるゼロを放逐させよう、だなんて……穏やかじゃないよねぇ?」
「最愛、とは聞き捨てならないね。君のその感情はギアスによるものなのかもしれないよ」
「ギアスが何か、お前は知らない。だからそんな僅かな真実に都合の良い嘘だらけの台詞も堂々と口にできる」
「朝比奈…?」

いったい何を言っているのかと、そう問うてきた藤堂と、その背後で不審を露わにする幹部達に眼を細める。
こんな下らない詭弁に惑わされるなんて、よほど動揺していたのだろうが…なんて情けない事だろう。
だが、朝比奈が生きて目の前に現れた今、少なくともその動揺は幾分収まるはずだ。
少なくとも藤堂と、千葉の二人は。

「それでこの場に全てを知っている者がいたら、どうするつもりだったのか……まさか、俺を殺したつもりになって安心してた?」

こんな事くらいで、殺せた気にでもなっていたのか。
そう笑って言う朝比奈は笑っているのに、その目は冷たく凪いでものでも見下ろすように温度を感じさせず。
シュナイゼルは背筋がひやりと冷たいものが伝うのを感じた。
全て、シュナイゼル自身の全てが目の前のこの男に読まれている心地がした。
全てを掌握され、手のひらの上で転がされているような……もしやこの場に自分がいるのも、この男の計算で誘い出されたのだとしたら。

「君は…、」
「朝比奈省吾。黒の騎士団一番隊隊長。藤堂さんの部下。ナリタの後、こちらへ協力を仰ぐ際に合流。なんて、もうそんな事聞かなくとも、宰相閣下なら全て調べてあるんだろう?」

分かっていたから、あそこでフレイヤを爆破させたんだから。
そんな朝比奈の言葉に、室内の一同は瞠目してシュナイゼルの方を振り返る。
それに涼しい顔をしながら、シュナイゼルは内心穏やかではなかった。

「何の事だい?」
「へぇ…しらばっくれるの?半死状態の木下をわざわざあの場に放置したのも、どうせお前の差し金なんだろう?俺をフレイヤの被爆圏内に誘い込むなんて、そこまで俺が邪魔だった理由…聞きたいんだけど?」
「どういう事だ、シュナイゼル?」

険を帯びた藤堂の眼に、シュナイゼルはけれど動揺せずに困ったように肩を竦めてみせた。
まるで自分には何のことか、分からないとでもいうように。

「それこそ憶測に過ぎないんじゃないのかい?それより今はゼロの話だろう?彼は君達を騙して、利用していた」
「そう、思い込ませるのに俺が邪魔だった、だろう?」

さらりとそう告げた朝比奈は楽しげに口端に弧を描く。
それは獲物を見つけた獣にも似た笑みで、シュナイゼルは一瞬ピリッと肌が粟立つのを感じた。
これは、未知なるものへの恐怖、か。
知らずに表情が硬くなったシュナイゼルを見つめ、朝比奈はふぅん?と首を傾げてみせる。
そろそろ分の悪さを自覚してきたのだろう。
だが、逃がすつもりはない。
態々…そう、態とこちらに隙を見せて、此処までしたのだ。
漸く重い腰を上げて手中に飛び込んできたその獲物を、逃がしてなどやるはずが…ない。

「ゼロがギアスを手に入れたのは、扇グループが起こしたシンジュク事変で巻き込まれC.C.と出会った時。その直後カレンに何故レジスタンスをしているのかという質問に力を使うが…残念。その時ゼロのギアスは一人につき一回しか使えない事に気付く」
「一人につき、一回?」

ぽつり、とそんな藤堂の呟きが聞こえてきて、朝比奈はそちらへ向くとへらりと笑ってみせる。
振り返った朝比奈は、頭に多少包帯等が巻かれ手当てされていて、やはりあの戦場から戻ったのだと実感させた。

「えぇ、だから便利にそう何度も無差別には使えない。一度かかってしまったギアスを解く術も無かった…つい、先日までは」

意味ありげに、最後を強調した口調で。
それは、普段擬態している朝比奈の作り笑いではあったけれど、先程までの朝比奈を見た直後では、その笑顔は誰からも酷く作り物めいて見えた。
いっそ畏怖すら覚えるほどに。

「だから、ユーフェミアの時も、最初は真意を確かめ万が一の時は自分を打たせようと思ったのに、ギアスが暴走。日本人を殲滅するまで止まる事はないあの御姫様を止めるには、あの時ゼロには殺すしか手段はなかった。それが彼の本意でなくとも」
「事故…だったというのか?ユフィを、殺す気はなかった、と?」
「コーネリア皇女は知ってるんじゃないですか?ゼロが、どういう人間かって事は。本気であの子が、御姫様を憎んで殺したとでも思っていたの?」

それとも過去の優しさなど、やはり偽りなのか。
暗にそう問いかけられているようで、コーネリアはぐっと言葉を詰まらせた。
確かに先日までコーネリアはこの場に拘束されていた。
けれど、待遇は悪かったとは思えない。
同じ体制では辛いだろうとルルーシュは度々様子を見に来てくれたし、自ら手料理まで毎回用意してくれた。
必死にゼロとして在ろうとしながらも、その根底の優しさを度々垣間見ては、コーネリアはユーフェミアをルルーシュが殺したという事実をどうしても受け入れられなかったのだ。

「ならば、先日の女子供を含む殲滅も」
「あれもブリタニアが秘密裏にギアスに対し人体実験を行い、幼い頃から女子供を暗殺者として育成してきた組織です」

口を挟んできた藤堂に、朝比奈はようやく彼も冷静さを取り戻したのだと気付いた。
その眼が冷静に状況を分析しているのを感じ、視線を戻す。

「実験対象は二度とまともな社会復帰は見込めない者ばかり。今後戦力として投入される恐れがあったので殲滅したそうです」
「ならば、何故俺達に話さなかった」
「暗殺者でも女子供です。俺はともかく真面目な藤堂さんや元一般人の幹部には後ろ暗い感情が残られては戦闘に支障が出ます」

これは朝比奈の推測も混じっていたが、確かにそれは事実であっただろう。
実際現場で殲滅にあたった者達ですら、その姿を見て動揺し、手を掛ける事に躊躇いがあったはずだ。

「子供達は皆、そのギアスとかいう力を持っていたという事か」
「らしいですよー?戦闘時には普段の戦闘同等の被害があったにも関わらず、相手はまだ年端もいかない子供達。だったそうです、外見は。大勢で殲滅しても、動揺して被害が大きくなっただけなんじゃないですか」

確かにその通りだ、と藤堂は思った。
事前いくら言い聞かせようと、実際見て戦うのとでは話が違う。
百聞は一見に如かずと言うが、実践はまさにその通りなのだ。

「ついでにこの前仲間にしたオレンジはギアスの力を無効化できる改造を一年前ブリタニアに施されて身体の半分以上が現在は機械です。知ってました?」
「いや…、」
「オレンジはゼロの母親に忠誠を誓っていて、ゼロの正体に気付き膝を折ったらしいです。母親は閃光のマリアンヌ。覚えてません?七年前にテロに見せかけて皇族に殺された皇妃。その子供は開戦間近の日本に人身御供として送られ、殺された」
「…まさか、悲劇の皇族。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアか」

“悲劇 の 皇族”

その名を、日本人ならば誰もが知っていた。
殺される為に日本へ送られ、本国に見殺しにされた子供達。
一人はまだ十にも満たない兄皇子で、妹姫は身体が不自由。
日本人の暴徒に殺された、と風の噂で聞いた者は多かった、が。

「最も愛した、ね。よくそんな事言えるよねぇ…散々本国から刺客を送り付けてたお前らが。確かに人質に送った皇族がその国で死んだら、さぞ良い戦争の口実になるだろうけど」

生きていたら、それは殺さないとさぞ拙いよねぇ。
死んだ事にして偽の戸籍作るくらい、正当防衛だよねぇ。

くすくす、と。何処か可笑しそうに笑いながら朝比奈は静かに黙ったままこちらの話を伺っているシュナイゼルを振り返る。
愉快に、けれど獲物を選別し見定めるように射抜くほど眺めるその鋭利な瞳は、決してシュナイゼルから反らされる事はなかった。
ひやりとしたものが流れる室内に、扇が耐え切れず口を開く。

「だがっ、ゼロは千草を…ッ!!」
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