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GLASS Fermata

基本、朝ルル中心、in騎士団なルル受ギアス小説サイト。詳しくは【First】をご覧下さい。日常的呟きとか、考察とか、ヨロヅにイラストとか付いたりするかも。
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  • 11/23/19:09

其の仮面を砕く者

2010年5月23日のギアスターボ6で無料配布ペーパーに付けたSSです。

朝比奈×ゼロ(ルル)で、ゼロバレ、皇族バレ。シリアス調純愛ハッピーエンド物語。

それでは続きからどうぞー!

「愛している」と、彼は告げた。
「気の迷いだ」と、“私”は告げた。

ルルーシュとは、ヴィ・ブリタニアは既に死人で、ランペルージは事実上存在してはならない者。
更に言えばゼロとは記号で、唯の象徴。
彼が愛を告げるその中身は、ただの空っぽ。虚無であったから。

その言葉を、信じてなどいなかった。
その愛を、受け入れてはいけなかった。
耳を塞ぎ、意識を閉ざした。
なのに、彼があまりに甘く穏やかに慈しむから。
亀裂が入りひび割れていくように、日々仮面は綻び崩れ。




だからこんな日はいつか来ると、予想していた事。
今更辛くも、哀しくもない。
そのはず、なのに…――




目の前に、割れた仮面を持つ美しい人がいた。
その額から伝う血は、恐らく先程ブリタニア軍人から受けた傷だろう。
彼が打たれ仮面が割れるのを遠目で見た朝比奈が、藤堂が止めるのも聞かず血の気の引いた顔で訪れた部屋に、一人彼は居たのだから。

「朝、比奈…」
「……大丈夫?傷、額のそれはまだ血が出てるみたいだけれど」

驚愕に時が凍りついたのは、ほんの数秒。
動き出した時間にテキパキと治療を施す朝比奈を、少年は完全に固まったまま凝視していた。
突発事項に弱いのかと、その意外な面に可愛らしさを覚え。

「どう?他に傷や痛いところはある?」

そっと穏やかにそう問えば、零れ落ちそうなほど見開かれた紫の瞳が次の瞬間には険呑な光を走らせた。
後ずさるように数歩、後方へ下がるその身体からは紛れもない警戒心が見てとれる。

「どういうつもりだ」
「何が?」
「私が誰か分かっているのだろう?」
「それは君がゼロって事?ブリタニア人で子供って事?それとも恐らく7年前この地に人質で来た悲劇の皇族の片割れだろうって事?」


ブリタニア人に珍しい黒髪に、高貴と呼ばれる紫の瞳。
なるほど。仮面を外した彼の顔を見ればその素性を予測するのは、
軍人であり昔から藤堂の下にいて彼等を遠目なりとも見た事のある朝比奈には容易な事であったので、恐らくその為の仮面だろう。
そういえばカレンが以前、同じクラスで生徒会の“ルルーシュ”という気に入らない男がいると話していた事があった。
という事は、現状は市政に身を隠し7年前の戦争以降ブリタニアの皇室から逃げているという事か。
確かブリタニアが日本に攻め込んだのは彼等が殺されたからという理由であったから、生きていたとしたら拙いだろう。
恐らく殺されるか、再び捨て駒になるか、彼の頭脳を考えれば飼い殺しにされる可能性も否定できない。
同時にカレンが同級生ならば枢木スザクも同じであり、彼等が昔枢木に預けられた過去から考えるに浅からぬ仲である事は推測できる。
ならば、枢木スザクに妙な執着が見えたのも納得できる範囲だ。


短時間にザッと簡単にそこまで推測した朝比奈は、特にその事実に動じる事もなく、むしろ網にストンとそれらは受け入れられて。
そう問いかけてみれば、ゼロは更に警戒心を露わに敵意すら感じる双眸で此方を射抜いた。
睨みつけるそれは、どこか怯えすら含まれているようで、その事実が不思議そうに朝比奈に首を傾げさせる。
けれど次の間に室内へ落ちた言葉に、その理由は知れた。

「草壁と片瀬を殺したのは、私だ」

凍り付いた仮面のような顔を張りつけてで、真っ直ぐにゼロらしき少年は朝比奈に告げた。
それは己の処刑宣告のように見えて、自分の事なのにどこまでも第三者の他人のように告げる彼が、逆に酷く脆く見える。

まるで、割れたばかりのその仮面のように。


「私は、C.C.との契約により既に人の理を外れている」
「人間に見えるけれど?」
「……私にはギアス、<絶対遵守>という力がある」
「ギアス?」
「強烈な催眠術のようなものだ。私は誰にでも一度だけ、己の言葉を強制させる事ができる」

ゼロは時折、人間業ではない事をやってみせるが、少なくともその力はゼロの奇跡の手助けになっているだろう事は確かだろう。
だが、今言いたい事はそれではないはずだ。

「意志を、強制?」

確認の為に問えば、クッと喉で笑う声がした。
踏み出した身体が優雅な足取りで朝比奈の前に立つと、その伸ばした白く細い指先で、引き寄せるように、誘うように。
朝比奈の顎をこちらへ向けさせた。
洗礼された動作で己を示し、口角を釣り上げて嘲笑う。

「日本解放戦線で起きた土砂崩れも、私が指示したものだ」

確認した答えに、それとは別の答えが返る。
つまり、そういう事。
彼は、ゼロは、その力で彼等の意志を踏み躙って殺した。
そう、彼は、あえて告げているのだろう。

――…恐らく朝比奈に、己を憎み嫌わせる為に。


「藤堂は、ブリタニア軍に捕まった際に、片瀬と同じく殉じるつもりでいたらしいな……まぁ、有能であった故にその命を私が拾った訳だが」

朝比奈が憤りそうな言葉をあえて選んで、あえて憎悪を、嫌悪感を煽ろうとして。
くつり、と目の前の顔が笑った。
それはどこか高慢で、妖艶に。
顎に添えた、その指先で擽るように肌を辿って喉に触れ。

「私を、殺したいか」

見下すような目線とは反対に、その奥で揺らぐ紫の瞳はどこか儚くなにものよりも綺麗で。
付き離すように触れる指先が、本当は縋りたがっているように見えた。
微かな震えが肌越しに伝わって、まるで泣き出しそうだと。
その姿に感じたのは――…愛おしさ。
ふぅわりと自然に浮かんだのは、あまりにも場違いな、慈しむような微笑みで。

「それでも俺は、君が好きだよ」

愛おしげに細められた溶けそうなほど柔らかな眼差しに、目の前の双眸が極限まで見開かれるのが分かった。
そこにあるのは、喜びと、拒絶。歓喜と、悲しみ。そして、恐れ。

「戯言を、…――」
「本気だよ、俺は」

はっきりと告げた言葉に、今度こそ確かに震えを感じた。
その手が離れようとする気配に、向けた視線がまっすぐ射抜く。
びくりっ、と肩が震える。
凍り付いたように、身体はその動きを止めて。

「俺のこの感情を、否定しないで」
「……ぁ、」
「俺は君が好き。どんな過去も、その素性を知った今も、俺が君を…ゼロもルルーシュも愛している事に変わりはない」

それは、穏やかでいて優しい、何より強烈な束縛であった。
全てを受け入れると、彼は言ったのだ。

ゼロである自分も。
ルルーシュ・ランペルージも。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアも。

全て、己を形成した全てを、愛していると。

「君が付き離そうとしても、俺に君を憎ませようとしても、それは決して変わらないから」

気付いてしまった、その感情の理由を。
相手を付き離す事でしか、己と関わらせない事でしか、相手の幸せを祈る事しか、守り方を、彼は知らないのだと。
独り立とうとする彼の姿はあまりに気高く美しくて…――だからこそ朝比奈は、少年を守りたいと思った。
思ってしまった。
そんな優し過ぎる彼だから、愛してしまった。

「だから俺に、愛する君を守らせて」
「……っ、」

その言葉が最後の鍵であったように、鉄壁の防波堤は砕け散って、少年の白い頬を無垢な滴が零れ落ちる。
堰をきったように溢れる透き通ったそれは、あまりに眩しく美しくて。

「…俺、は……皇族だ」
「うん、そうだね」
「7年前日本占領を防げなかったのは、俺達に力が無かったからだ」
「それをまだ10歳になったばかりの君達の所為にする奴がいたら、そいつには日本人の誇りなんて欠片もないよ」
「俺には妹が…ナナリーが、一番大切で、」
「たった一人の妹だもんね、お兄ちゃんなら当然じゃないかな」
「カレンとは、同級生で生徒会も一緒で、スザクは俺の親友なんだ」
「カレンには言い辛いだろうし、枢木の場合はゼロになる前からなんでしょう?だったらあいつが軍人になっていたのは関係無いよ」
「俺は子供で、男だ」
「俺は大人で、男だね」
「C.C.との契約で、人の理を外れているし、力もある」
「うん。さっき言ってたね、そんな事」
「…こんなに面倒な奴なのに、嫌にならないのか?」

くしゃり、と歪んだ顔を、今度は朝比奈が引き寄せて。
その額に小さく、啄ばむように口付けた。
最上級の慈しみをもって、溢れんばかりの愛情を笑みに載せて。
不安ならば何度でも、貴方に愛を囁こう。

「 大 好 き に 決 ま っ て い る で し ょ う 」


その宣告に顔を歪め、まるで何かに耐えるように。
手に入れたばかりの愛情に不安と戸惑いに震えるその細い身体を、包み込む為に朝比奈は腕を伸ばした。
抱き締めて両腕に閉じ込めたその身体に、愛しさは留まるどころか募るばかりで。
こんな貴方を嫌う事なんて、こんなにも貴方無しでは生きられなくなってしまった俺には、できるはずが無いというのに。
俺のこの両腕で君を怯えや不安からさえ、守ってあげたいと願うから。

「ねぇ、ゼロ…ルルーシュ君。一番最初に言った事、もう一度聞いてみても良いかな」

耳元で甘く囁けば、その細い肩はぴくりと震えた。
ほんのり朱に染まった耳に、くすりと笑みを零し口付ければ、身じろぎするその頬までも鮮やかに紅葉の如く彩って。

「俺、君の事好きです。大好き。愛してます。だから、俺とお付き合いしてもらえませんか」

ふわりと愛おしげに笑って謳われた愛の告白を、そっと顔を上げたルルーシュは思わず直視してしまって。
真っ赤になった顔を朝比奈に押し付ける事で必死に隠しながら、必死にぐるぐる沸騰しそうな頭で、拙く答えを囁いた。
それは、擦れて聞き取りにくくあったけれど。

「…別に、付きあっても、良い」

本当は、自分も好きだったから。なんて、言える筈もなく。
素直ではない、それでも精一杯の拙い愛をルルーシュは返すから、朝比奈はそれを全て零さず目一杯に受け止めて。

「やったー!俺、絶対幸せにするからね」
「ばっ、馬鹿!…抱き付いたまま耳元で騒ぐなっ!!」
「うんっ、ルルーシュ君、愛してるよー!」

輝かんばかりの笑顔で全身で嬉しさを表して、ルルーシュより大きな大人の男の両腕で大切な宝ものを慈しむように抱き締めるから。
その温もりに思わず涙ぐみそうになりながら、ルルーシュはそっと、自分の手を朝比奈に伸ばした。



その言葉に、愛に、耳を塞ぎ、意識を閉ざしながら。
本当に一番、飢えて欲したのは自分だった。
けれど、彼があまりに甘く穏やかに「仮面の中の自分」を慈しむから。

予想外の未来に溺れそうになりながら、砕かれた仮面をそっと外し。
少年はその両腕に包まれて満たされる事を知ったのだった。



■END
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